J2最強の仕掛け ベガルタ仙台 2022年前半戦 振り返り

2022/06/13

サッカー ベガルタ仙台

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 2022年のベガルタ仙台は13年ぶりのJ2を戦っている。
 2021年、2試合を残して手倉森誠元監督からヘッドコーチを務めていた懐刀 原崎政人現監督へ。懐刀といっても、両者のプレーイング・アイディアは大きく異なること。また、カテゴリが異なることや債務超過の影響なども予想されるが、選手も大きく入れ替わることになった。
 原崎監督は、「強化部と連係し、狙っていた選手はほぼ獲得できた」とコメントを残している。

 ベガルタ仙台は2019年シーズン以降、前述の債務超過か、強化部と連係ができなかったのか、もしくはその両方の影響かは分からないが、監督の求めるサッカーに応えられる選手の獲得に失敗し、監督の求めるサッカーに応えられる選手の移籍が続いた。
 結果として、守備偏重とカウンター、セットプレーで勝ち点を狙う戦い方が続いていた。これは、原崎監督の掲げる「試合に勝つために、主導権を握る。攻守に仕掛けるサッカー」との親和性はなく、選手たちに貯金はない。キャンプ段階で選手たちからは「基本的な技術がしっかりしていないとうまくいかない。すごく頭も使う」という声があがっていた。
 その一方で「突き詰めていけば、すごく面白いサッカーになると思う」という声もあり、結果はともあれ試合内容は、過去2年間のつらい日々からの解放に期待がかかる。

 蓋を開けてみると、開幕から3試合は負けなしではあったものの、「主導権を握るサッカー」とはほど遠い内容。しかし以降はコロナ禍や負傷者続出といったアクシデントもありつつも修正を重ね、21試合12勝4分5負の2位という好成績で前半戦を折り返した。この12勝という数は過去2年間の勝利数を既に上回っている。

J2最強の仕掛け

 2022年の原崎仙台の特徴は得点力であり、得点数38は前半戦を終えた段階でJ2で最も多い。
 J1最小得点だった昨季から何が変わったのか。そのカギは攻守の「仕掛け」にある。

攻撃の仕掛け「横軸のギャップの交点で味方と繋がる」

 攻撃の仕掛けは、ポジショニングが重要だ。
 横軸のギャップの交点で味方と繋がることで、フリーの選手から、より状態の良い選手へボールを繋ぎ、ゴール前へ時間とスペースを届ける。ポジショニングで得られる時間とスペースは、配置をベースにするのではなく、ボールをベースに届ける。そのため、リスクがあったとしてもワンタッチ・ツータッチでボールスピードの速い縦パスを狙い、チーム全体が加速していく姿は勇気の象徴とも言える。



 速いパスはそれだけボールがズレたり、受け手のコントロールが難しくなるリスクがあるが、原崎監督は対策としてトレーニングでパス3原則を落とし込んでいると予想される。
 往年のベガルタ仙台サポーターであれば見慣れた光景であるウォーミングアップの対面パスはマクロレベルで見れば今年も変わらず実施されているが、ミクロレベルでみるとパススピードが向上し、パスを付ける場所、サポートの角度やターンなどに変化が見られる。これらはすべて、パス3原則に従って行われている。

守備の仕掛け「肉を切らせて骨を断つ」

 守備の仕掛けもまた、ポジショニングが重要だ。
 第19節 栃木SC戦後の原崎監督のコメントからチームの守備に対する考え方を導き出すことができる。

「自分たちがいい立ち位置を取れば取るほど、失った瞬間は相手もフリーだから、その切り替えを今日は1番にやりましょう」


 このコメント自体は、仙台がボールを保持している場面で、相手にボールを奪われた瞬間の状況について言及されたものだが、ここから原崎仙台の「仕掛ける守備」が逆算できる。それは「相手にいい立ち位置をとらせた上でボールを奪えば、奪った瞬間には自分たちがフリーになる」ということだ。

今日のゲームに関しての守備のプランのなかでは、悪くはなかったと思います。
そこまで「これはちょっといやだな」という感情にはならなかったのですが、やはり取りきったボールをどうしても自分たちのボールにできないことが、1番今日苦しかったところかなと思います。
2022明治安田生命J2 第1節 アルビレックス新潟

Honda FCさんに対しての守備はほぼ狙いどおりボールを奪えていましたし、最初の失点のところはちょっといりませんでしたけれども、ほぼ狙いどおりやれていたので、選手たちがしっかりやってくれたなという印象を受けています。
天皇杯 JFA 第102回全日本サッカー選手権大会 第2回戦 Honda FC戦 


 どちらの試合も、 チームの狙い・思考を考察しなかった場合、「この監督は一体何を言っているんだ」というくらいボールを前進させられた内容だったように思う。具体的な現象で言うならば、渡邉晋元監督のチームが得意としていた「切るパス」でサイドハーフを置き去りにされるシーンが多いのだ。
 しかしながら、この「切るパス」でいい立ち位置をとれる選手はサイドバックやウイングバックの選手である。仮に攻撃力が秀でていたとしても、この時点ではゴールに直結するような危険にはならない。

 一方で、切られた後にボールを回収することができれば、仙台のサイドハーフは広大なスペースを得ることができる。いわゆる「フリー」な状況だ。加えて、切られたということはボールを受ける位置はハーフスペースであり、最も選択肢が多い状況でもある。

 

 切るパスは肉を切ることしかできない。代わりに骨を断つ仙台は「ローリスクハイリターン」を得ることができるのだ。


より前進するための痛み

 キャンプ後に理想に対するチームの到達度について、原崎監督は「一つできると、その次をどんどん求めてしまうので、表すのは難しい」と答えた。この姿勢は今も変わらず、前半戦2位の内容に満足せずに、より前進するためにチームは修正を繰り返している。
 しかしながら修正とは耳の痛いフィードバックであり、変わっていくためには痛みを伴うものである。以降は、後半戦により前進するために伴う痛みについて確認していく。

システム「4-2-3-1への再チャレンジ」

 原崎仙台の長所でもあり短所でもあるのが、中盤に軽量級の選手を多く抱えていることである。軽量級の選手ゆえに細かなポジショニングや連続性のあるプレーを見せることができるが、マンマークを付けられた際に苦戦しているという事実もある。
 初めにこの課題に陥ったのは第6節のFC町田ゼルビア戦。コロナ禍で選手・スタッフがいない。トレーニングの日程を確保できないなどのアクシデントを敗因にしがちだが、ボールサイドの仙台のボランチに対してトップ下の選手をマークに付かせ自由を失う工夫が行われており、仙台は完敗した。
 他にも、第10節 横浜FC戦、第15節 V・ファーレン長崎戦、第20節 ジェフユナイテッド千葉戦など、ボランチに自由を与えてくれない相手に対してチームは苦戦している。
 この課題については、原崎監督は開幕前のキャンプ時点で気付いていたと予想される。そのため、第1節 アルビレックス新潟戦では4-2-3-1で赤﨑修平選手をトップ下に置き、左右のサイドバックには低い位置でビルドアップのできる内田裕斗選手、加藤千尋選手をスタメン起用したのではないだろうか。
 2節・3節の結果や試合内容を踏まえて、この取り組みが実戦ではまだ難しいことが分かり、4節以降ではサイドバックはディフェンスラインではなく中盤底と同じ高さをとる4-2-2-2へシフトしたが、第12節 ロアッソ熊本戦の終盤で遠藤康選手をトップ下に置いた4-2-3-1に。第16節 ツエーゲン金沢戦で両サイドバックを低い位置でプレーさせ、開幕戦で躓いた4-2-3-1へ再チャレンジすることになった。

 なぜ両サイドバックを低めにポジショニングさせた4-2-3-1に拘るのか。それは前項にあるように、中盤の底が常にボランチの選手と決まっていると、相手に対策を取られやすくなってしまうため、中盤の底のスペースを多くの選手で共有しよう。そのためにはサイドバックが低い位置を取り、中盤の底にスペースを作ろうという狙いがあると予想される。
 例えば、遠藤選手が中盤の底へポジショニングをとることで、相手のセンターバックはどこまでも遠藤選手へ付いていくことができないからフリーになる。また、通常は中盤の底でプレーするフォギーニョ選手、もしくは中島元彦選手らが1列前にポジショニングをすることで、マンマークの選手を引き連れて中盤の底にスペースを生み出す。そういった狙いがみえる。
 しかしながら、これらは机上の空論であり、そこまでスムーズにはポジションチェンジを行うことができていない。ポジションチェンジの距離が遠ければ遠いほど、相手に混乱を与えることができるが、これは自分たちもオーガナイズされたポジションからは離れていくことになる。スペースを見つけることは困難になるだろうし、得意なことができず、不得意なことをやらなくてはいけないことになる。
 例えば、ボールロストした際に、遠藤選手にボランチ並みの守備強度を求めるのは酷な話であるし、ラスト30mでフォギーニョ選手に遠藤選手並みのクオリティを求めるのも酷だ。中盤の底で、ノープレッシャーで前を向くことができて輝ける選手が、より相手に近い位置でフィジカルコンタクトを受けながらでは前を向けず輝くことができないということもある。

 全員が全員、全てのエリアで同じようにタスクをこなせれば、このようなことは起きないだろうが、そんなことはあり得ないので、ポジションチェンジにノッキングが起きており、ボールを動かすことができていない。後半戦に相手の対策を上回るためには、どうしても必要な痛みではあるが、超えるには時間がかかりそうな問題だ。

攻撃の仕掛け「縦軸でもギャップの交点で味方と繋がる」

 第4節以降の強みであるギャップの交点で味方と繋がるポジショニングだが、横軸で繋がることはできても、縦軸で繋がることができていないという課題がある。

 中盤の底にポジショニングする選手の入れ替わりがスムーズになったとしても、一度サイドバックを経由する必要があるなど、時間がかかってしまえば相手は入れ替わった選手にアジャストした守備を構築することができる。この対策として、テンポを上げるために、縦軸でもギャップの交点で味方と繋がる必要がある。

 主に両サイドハーフが降りてきて、センターバックからの縦パスを中盤の底にいる選手へ落とすことでプレーは完成するが、これが仙台はまだできない。
 印象的な試合は第6節 FC町田ゼルビア戦で、ボランチへの対策を打たれたことで左サイドハーフの大曽根広汰選手が降りてきてボランチと縦軸で繋ごうとしたが、ワンタッチ・ツータッチで落とすことができずにボールロスト。相手の守備の狩場となってしまった。
 第17節 大宮アルディージャ戦では左サイドハーフの氣田亮真選手が降りてきてワンタッチで落としたところ、ボールがズレてしまい相手に拾われ、あわや失点という場面があった。
 このプレーを安定してできる選手としては名倉巧選手があげられる。名倉選手は縦軸のギャップの交点を見つけることもできるし、ワンタッチ・ツータッチで中盤の底にポジショニングする選手へ落とすこともできる。中盤の底の選手がポジショニングできていない場合は、左右へ90度のターンを行い、逆サイドへ繋いで崩しの局面へ加速するスイッチとなるパスを繋いだり、大外からサイドバックが前進するスイッチとなるパスを出すことができる。


 なお、2人の選手のミスについて触れたものの、他のサイドハーフの選手は縦軸のギャップの交点を見つけられず、降り過ぎて自らが中盤の底になってしまったり、裏やサイドへランニングしてみたりと、そもそもポジショニングできないという段階であるため、成熟度としてはかなり低い。これもまた、必要な痛みではあるものの、超えるには時間がかかりそうな問題である。

失点の多さ「肉を切られて骨も断たれる」

 原崎仙台の強みでもある仕掛ける守備であるが、実際のところはミドルリスクハイリターンになってしまっている。

 当然ながら切るパスを蹴らせているので、サイドでは数的優位ができていることが多く、シンプルにクロスを蹴られるという場面が多い。クロスからの攻撃というのは守る側がゴール方向へ走らせられている場合を除けば、ゴール期待値が低いプレーではあるものの、仙台の場合は失点に繋がってしまっている。
 骨を断つために、両サイドハーフの戻りが遅くなってしまうのは、戦略上やらないこととして決めているので仕方ないとしても、センターバックやサイドバックが相手に競り負けてしまい、失点してしまうのは厳しいものがある。
 元を辿れば、修正ポイントとして常に挙げられている「スライド」「コンパクト」「ボールホルダーへの寄せ」が甘いことが要因ではあるが、トレーニングの比重としては重くないと考えられるため、個々人の成長に期待せざるを得ない。

 結局のところ、完璧な仕組みというのはこの世に存在しない。仕組みには脆弱性が存在することを許容し、その脆弱性へ対応する個人の能力が必要となる。こればかりはサッカーの神様に祈るしかない。

後半戦に向けて

 前半戦を2位で折り返したとはいえ、終盤の試合を見る限り、仙台対策は既に周知の事実となりつつある。負けたにも関わらず手応えを感じているチームが多いため、後半戦ではよりアグレッシブに対策を仕掛けられるだろう。

 原崎監督としては、既に課題は認識しており、それに対する解決策はゲームプランとしても与えているし、個人戦術、グループ戦術としてもトレーニングで落とし込んでいることは見て取れるが、ピッチレベルでは実行できていない。サッカーは結局のところ、監督がやるものではなくピッチ上にいる選手たちがやるものであり、この壁を乗り越えていく必要がある。

 課題は山積みながらも、勝ちながら修正に着手できた前半戦を、後半に繋げることができるかは楽しみにしたいし、何よりも今年の選手・スタッフ・チームは信じたい。こんなにも楽しく、ベガルタ仙台のサッカーを見れるのも、考えられるのも、本当に2年ぶりなのだ。こんなに嬉しいことはない。

 まずは第22節 横浜FCをベガルタゴールドに染まったユアテックスタジアムでボコボコにしてくれることを期待します。

※本記事は、2022年6月11日(土)にTwitterスペースにて行われた「#vegaltalk前半戦を振り返ろう」で、私が話せたこと・話せなかったことを簡潔にまとめたものです。スペースではサッリ・サポリとの既視感などの余談についても話していますので興味がある方はご確認ください。

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