
これまで本ブログでは、原崎監督の志向するサッカースタイルについて考えてきた。
本記事は、原崎監督のサッカースタイル第3弾『パス3原則』について考えていく。
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パス3原則とは
『パス3原則』とは、前述のピム・ファーベーク監督(元大宮アルディージャ監督)が、大宮アルディージャに導入・指導した原則である。
アカデミーでも実践していけばよりよい選手が育つだろうということで、大宮アルディージャのアカデミー強化に欠かせないメソッドになっているようだ。
原崎監督は現役時代にピム・ファーベーク監督から直接指導を受けている。
また、現役引退後は大宮アルディージャのアカデミーから指導者をスタートしており、現在のサッカースタイルにも影響されていると予想される。
『パス3原則』には2つの大きなテーマがある。
- 安定してビルドアップで相手のFWラインを突破する
- 意図的にゴールチャンスを作るために、相手のDFとMFの間で前向きの選手を作る
ボールで主導権を握るサッカーを行うためには、欠かせないテーマである。
尚、文章を読むことが苦手な方は、以下の動画を視聴されることを推奨する。
サッカーにおける受け手の状況
サッカーには、フォーメーションやスコア、時間帯など様々な要素がある。
しかしながら『受け手』にフォーカスすると、その状況は3つに限られる。
- 受け手がフリーである
- 受け手へのマークはゆるく、少し離れている
- 受け手はマンマークでつかれている
これら3つの状況を解決し、安定したビルドアップやゴールチャンスを生み出すための原則が『パス3原則』だ。
原則1 受け手がフリーの場合
受け手がフリーの場合、出し手はパススピードの速いボールを蹴る必要がある。
パススピードの速いボールのことを『ハードボール』と呼ぶ。
『ハードボール』の受け手はフリーなので、ターンする。
この際によくありがちなミスは、出し手がパススピードよりもコントロールを重視してしまうことだ。
例として、右センターバックから右サイドバックへのパスをあげる。
よく右センターバックの選手が言われるのは、右サイドバックの右足を狙ってパスをするということ。
右サイドバックの選手はコントロールしたと同時に前を向けた状態になるので、プレーしやすくなる。
しかしながら、これは机上の空論であり、コントロールを重視したが故にパススピードが落ちてしまうなら、受け手はフリーではなくなる。
また、パススピードを速くしようとすると、インスイングになってしまい、ボールが右足から逸れてしまう。
そうなると、コントロールしたところを相手選手に狙われてしまい、ボールを失ってしまうのだ。
これでは安定したビルドアップとは言えない。


原則1では、足を狙ってパスはしない。
受け手の身体の中心を狙ってパスをするのだ。
こうすることで、多少パスがズレたとしても速いボールを蹴ることができる。
また、受け手はボールが動いている間にステップを踏みポジションを調整すれば、オープンにボールをコントロールすることが容易である。
ボールが動いている間にステップを踏み、広い視野を確保して受ける個人戦術を『デスマルケ』と呼ぶ。

以下はイバン・パランココーチ(現・ヴィッセル神戸ヘッドコーチ)が、東京ヴェルティ ヘッドコーチ時代に井上 潮音選手へ『デスマルケ』を指導している映像。
出し手だけに依存するのではなく、受け手がポジションを調整すれば、オープンにボールをコントロールすることができる。
こういった出し手のパススピードと、受け手の『デスマルケ』が合わさった原則1が実現できている状況を、サッカーが速いという。
原則2 受け手へのマークはゆるく、少し離れている場合
受け手へのマークがゆるく、少し離れている場合は、出し手はスピードを落としたパスを蹴る必要がある。
<フリーではないのだから、パススピードは速い方がいいのではないか>と思う方もいるかもしれない。
しかし、パススピードが速い場合、相手を観察する時間がなくなる。
判断を誤れば、ゆるいマークだとしてもコントロールしたところを奪われることが十分にあり得る。
そのため、パススピードは落とす必要がある。
パススピードを落とすことで、出し手はパスのコントロールが可能となる。
原則1では、パススピードを重視するために受け手の身体の中心を狙ったパスを蹴るが、原則2では相手のプレッシャーが届かないように受け手のマイナスにボールを蹴る。
受け手は相手の状況によって、次のプレーを決める。
- 相手がプレッシャーにこない場合は、ターンをして前を向く。
- 相手がプレッシャーにくる場合は、出し手へリターンする。
例として、右センターバックから右サイドバックへのパスをあげる。


原則3 受け手はマンマークでつかれている場合
受け手がマンマークでつかれている場合は、受け手は直接はボールをもらわない。
しかし、より相手のベクトルを強く自分に向けるために、ボールをもらうアクションをする。
その際に受け手は出し手に対し、自分ではなく1つ奥の選手へパスを出すようコーチングを行う。
出し手が1個飛ばしのパスをしたら、最初の受け手は3人目に対して前向きのサポートをして2vs1の数的優位を作る。

楔のパスを受け、相手を背負った選手をサポートして、前向きに関わっていくことを、ベガルタ仙台では『潜る』と呼ぶ。
『潜る』は手倉森誠前監督(現・BGパトゥム・ユナイテッドFC監督)、渡邉晋元監督(現・モンテディオ山形トップチームコーチ)が使っていた言葉だ。
原則3によって、普通の人たちからするとそこはパスコースではないというところがパスコースになる。
マンマークでつかれていたとしても、事実上のフリーになることができる。
風間八宏元監督(元・元川崎フロンターレ監督)曰く<背中に背負っている状態でも、ボールを当てて、そこに味方が入っていけば相手と2対1の数的優位になるから、イコールもうそれはフリー>ということだ。
パス3原則が存在する利点
最後に『パス3原則』が存在する利点について確認して、本記事を終わりとする。
それは、原則という基本的な決まり事があることで、改善するためのチャックポイントの目が、スタッフ・選手ともに揃うことだ。
例えば、受け手がフリーなのにパススピードが遅い場合。
- 出し手が受け手の状況を見れていないのかもしれない
- 出し手のパススピードが単純に遅いのかもしれない
例えば、受け手がフリーなのにターンができない場合。
- 受け手は自分のマークの状況が見れていないのかもしれない
- 受け手はターンの技術が単純に足りないのかもしれない
原則があることで、「できなかった」という事実を、改善に繋げることができる。
日々のトレーニングでチームを前進させていく原崎監督にとって、『パス3原則』は試合という目先の戦いに勝つためだけではなく、シーズンという長い戦いに勝つために欠かせないメソッドだ。