ギャップの交点で味方と繋がる―原崎監督と選手の約束事―

2022/03/14

サッカー ベガルタ仙台

t f B! P L


前提

5レーン理論

ピッチ幅に対して、縦に5分割する静的な理論。

参考:ポジショナルプレーの実践編。選手の認知を助ける5レーン理論

レーン

ピッチと相手選手に対して、縦に分割する動的な理論。

参考:[ポジショナルフットボール実践論 すべては「相手を困らせる立ち位置」を取ることから始まる, 渡邉 晋, カンゼン, 2020/10/14] 

4レイヤー理論

ピッチと相手チームのFW-MFライン間、MF-DFライン間といったラインに対して、横に分割する動的な理論。

参考:「5レーン&4レイヤー理論」

ギャップ

縦・横・斜めと、相手選手と相手選手を繋ぐ間。

ギャップの中心点

ギャップを線として見た際に、ギャップの要素である相手選手と相手選手の距離が等間隔になる点。

ギャップの交点

ギャップの中心点Aの延長線上とギャップの中心点Bの延長線上の交点

これまでの流れ

2022年のベガルタ仙台のサッカーを考える上で欠かせないのが、ボールキャリアーへの平行サポートである。
1-3節ではサイドからMF-DFライン間のレイヤーへ平行サポートに入った選手への横パス。
換言すると、同サイドの<ハーフスペース>へ横楔を入れるところから崩しの局面へ移行する場面が多々みられた。

しかしながら同サイドへの<ハーフスペース>への横楔は、守備側からするとの<身体の向き><視野><ベクトルの強さ>の負荷は高くない。
横楔でギャップを通されたサイドバックやウイングバック、サイドハーフの選手こそ、身体の反転、それに伴ってマーカー(=パスの出し手)を一時的に視野から外すことになるが、他の多くの選手は同じ身体の向きと視野を確保したまま守備を行うことができる。


このままではサイドへ戻してクロス。
もしくは出し手とのワンツーなどでペナルティエリアの角を取りにいくことが関の山だが、先述した通り、多くの守備側の選手に混乱は生じないため、得点の可能性はあまり高くない。

これに対して、原崎監督は4節で打開策となる約束事を選手たちに与えた、もしくは再確認したと思われる。

フォギーニョに関してはトレーニングで状態が徐々に上がってきていて、今日は相手に高さもありましたし、そういう意味を含めてフォギーニョが十分相手にやってくれると思ったので、チャンスを与えたというところです。
ハードワークしてくれましたし、繋ぎの部分でも自分たちの約束事をやってくれたので、本当に良かったと思います。
参考:
2022明治安田生命J2 第4節 いわてグルージャ盛岡

その約束事とは<ギャップの交点にポジショニングする>ことであると予想した。

ギャップの交点にポジショニングする

ボールキャリアーと周辺の相手選手のギャップ、かつ、ボールを受けた後に縦楔を供給する<ギャップの交点>にポジショニングする。このポジショニングをとるのが上手なのがバルセロナのセルジオ・ブスケッツ選手だ。
最終的なボールを届ける目的地は同じで<ハーフスペース>ではあるものの、横パスで<ギャップの交点>を経由することによって、相手選手の<身体の向き><視野><ベクトルの強さ>といった負荷を大きくすることができる。

下図はあからさまな例ではあるが、LSMとLCMの2選手の<身体の向き><視野><ベクトルの強さ>の負荷が高いことが分かる。
これによってMF-DFラインを分断させ、<ハーフスペース>から崩しの局面へ加速することができている。
1手多くなっているがゴール方向へ加速することができているこのような状況を<サッカーが速い>という。



下記URLはセルジオ・ブスケッツ選手のギャップの交点にポジショニングをとる参考動画。
参考動画では<ギャップ>を<ゲート>と表現しているが同義である。
強い拘りのある言葉ではないため、イメージが付けばどちらでも問題ない。

参考:【完全版】ブスケッツのプレースタイル ポジショニング (セルジオ・ブスケツ) バルセロナのボランチ Análisis táctico de Busquets ,Tactical Analysis


ギャップの交点で縦楔を入れる選手と繋がる

ギャップの交点は具体的な場所であるが、抽象的にはライン間と呼ばれる場所となる。
ライン間は、ボール非保持側は誰がプレッシャーに行けばいいのか混乱するというメリットがあげられる。

一方でボール保持側からしても、次に誰がプレッシャーをかけてくるか分からない場所でもある。
またライン間は、近辺の相手選手との距離が等間隔となるので、どこにボールをコントロールしても時間が増えることはない。
従って考え方によっては認知、判断にかけられる時間がない。

そのため、ギャップの交点で平行サポートをする選手は、ボールキャリアーとペアリングするだけではなく、縦楔を供給するギャップに立つ味方選手と事前にボールなしペアリングをしておく必要がある。
ボールなしペアリングをしておくことで、ワンタッチ、ツータッチといった早いテンポでプレーできるので、時間のないライン間でも縦楔を余裕をもって蹴ることができる。
参考:[サッカー「いい選手」の考え方 個とチームを強くする30の方法, 鬼木祐輔, 池田書店, 2021/10/21] 



ワンタッチ、ツータッチといった早いテンポのパスは、出し手のタイミングで行われると失敗の可能性が増す。
失敗の可能性が高いプレーは勇気のあるプレーではなく、無責任なプレーといえる。
出し手がワンタッチでも蹴れるタイミングで、受け手がサポートが完了していることが重要であり、そのタイミングに受け手が間に合わないのであれば、出し手はタイミングをコントロールする必要がある。
失敗の可能性を下げるために、自分本位のタイミングではなく、受け手本位のタイミングにコントロールすることこそ勇気のある、責任感のあるプレーである。

遠藤選手のゴール

中山選手のゴール

遠藤選手は受け手がギャップで楔のパスを受けられるポジショニングがとれるようになるまで、タイミングをコントロールしていることが分かる。

ワンタッチ、ツータッチのプレーが技術的に難易度が低くできる状態のことを<良い距離感>と呼ぶ。
隣のレーン、もしくは前後のレイヤーの選手と、ボールを受ける前にペアリングしている状態が<良い距離感>の条件である。

横楔のワンタッチプレーの保険

いくら準備をしていてもワンタッチプレーは難易度が高いプレーである。
本記事ではこれまで、横パスをワンタッチで縦方向へパスすることについて記載してきた
縦方向のパスは失敗となったとしても、相手ディフェンスライン、もしくはゴールキーパーへボールを渡すこととなり、カウンターの脅威はいくらか少ないものである。

しかしながらベガルタ仙台が縦楔だけではなく、横楔も崩しのトリガーとしているのは先述した通りである。
横楔のワンタッチプレーは縦楔のワンタッチプレーと比較してリスクが高い。
攻撃側の選手は前方向にベクトルを向けているため、横楔がズレてしまうと守備側がゴール方向への強いベクトルで入れ替わることが可能となる。
これに対して原崎監督が保険をかけていると予想している。

その保険とは、出し手、受け手の奥に、もう1人選手をポジショニングしていることである。
仮に受け手にパスが通らなかったとしても、流れたボールが奥の保険の選手に繋がる。
もしくは、相手に繋がったとしても奥の保険の選手がファーストプレスをかけ、トランジションの時間を生み出すという仕組みになっている。

なお、これは本記事の中でも、最もたまたまの可能性が高い予想である。

まとめ

本記事では、2022年のベガルタ仙台のボール回しには、3つの約束事があることを予想した。

  1. ギャップの交点にポジショニングする
  2. ギャップの交点で縦楔を入れる選手と繋がる
  3. 横楔のワンタッチプレーの保険をかける

元々は「#vegaltalk 第4回目~岩手戦~」で話した内容である。
頭の中ではまとまっていた自信があったが、話してみるとフワフワしていたり、イメージの共有ができていないように感じたためドキュメント化した。

本来であれば平行サポート者への横パスでは、ボールが動いているうちにステップを踏んで身体の向きを作る<デスマルケ>の重要性などにも触れたかったが、着地させられる自信がないので、そのうち書きたい。恐らく書かない。

気になる方は以下に参考動画を置くので、みていただくといいかもしれない。

追記

以降の試合の「ギャップの交点」を用いた得点シーン。

QooQ